リスカに代表される,自分の髪を抜くなどの自傷行為が起こる理由はなんでしょうか。また,自分の子供が自傷行為をしていたり,学校で児童生徒が自傷行為をしているのを発見した場合どのように対応すれば良いのでしょうか。
自傷行為とは
まず,自傷行為とは「自殺以外の目的で非致死的な手段と非致死性の予測を以て,故意に自らの身体に損傷を加える行動」と言えます(松本, 2012)。ここで大事なポイントは自傷行為は自殺行為ではない,ということです。確かに自傷行為を繰り返す者の自殺リスクは有意に高いですが,自傷行為自体は「死にたい」から行っているのではないのです。
また自傷行為をするは珍しいというイメージがあるかもしれません。それは大きな誤解です。松本らの研究によると,中高生の約1割が自傷行為の経験があるとのことです(松本他, 2008)。左利きくらいの割合で自傷行為の経験者がいることを知っておかなくてはいけません。
なぜ自傷行為をするのか
自傷行為をする理由についても世間には多くの誤解が蔓延っています。多いのは「構ってほしいから自傷行為をしている」という誤解です。これはいわゆる「メンヘラ」のイメージでしょう。漫画やアニメの中でメンヘラと呼ばれるキャラがリストカットなどをするシーンがあるのでしょう。そこから自傷行為をしているものは構ってほしいだけという誤解が生まれるのでしょう。こういう場合もあるでしょうが,多くの自傷行為はアピール行為ではありません。メンヘラがリスカするのはアニメの中だけだし,リスカする人がメンヘラなのは更にアニメの中だけということです。
では一体なぜ自傷行為を行うのでしょうか。現在では「不快感情への対処」とされています。皆さんストレスが溜まった時に,何をしますか?寝る人もいれば,趣味に没頭する人,友達に愚痴りまくる人もいるでしょう。皆さん不快感情を適切に対処する術を知っているのです。自傷行為をする人たちは,この不快感情を上手く対処できないのです。孤独に不快感情を対処しているのです。
精神というのは傷ついていることが曖昧である一方,身体は傷ついていることは一目瞭然です。この不快感情という精神的傷を,身体的傷に具現化して,心の傷を見える化している,というのが自傷行為の本質でしょう。
自傷行為への対応
まず自傷行為を発見することがかなり難しいです。約1割の中高生が自傷行為の経験があるのにも関わらず,学校が自傷行為を把握している割合は0.33〜0.37%とされています(日本学校保健会, 2009)。家庭も学校も,難しいけれども,子供の様子をきちんと見なくてはいけないでしょう。
仮に自傷行為を発見,もしくは自ら相談しに来てくれた場合,次の5つを意識しましょう。
「話してくれてありがとう」から入る
子供も,自傷行為をしていることに負い目を感じていることがほとんどです。中には「怒られるかも」と思っている子供もたくさんいます。そんな相談しずらい中で,勇気を出して相談しに来てくれたのです。それを素直に褒めましょう。
自傷行為を禁止しない
上にも書きましたが,子供だって自傷行為に負い目を感じています。子供も止めたいと思っています。そんな中「切ってはいけません」とか言われることを想像してみてください。当然悲しいですし,そもそもそれが出来たらとっくに止めています。
罪悪感を抱かせない
良い悪いの議論やなぜやったのかなどの問い詰めは意味がありません。子供は罪悪感をもともと感じています。そのような議論より,子供の悩みや不安などを丁寧に傾聴することが大事です。
親に内緒にしない
親に内緒にせず,1人で抱え込まないようにしましょう。時と場合によっては親ではないかもしれませんが,相談できる人が身近にいて,安心できることが重要なのです。ここで注意することは「次,自傷行為したら親に言うからな」などという懲罰にしないことです。「親御さんに伝えたいんだけど良い?」などと子供の理解をきちんと得るようにしましょう。
背景の可能性を考える
自傷行為をする背景として,虐待やいじめ,性被害などが考えられます。そのような根本問題がある場合はそれを解決する必要があります。但し,ここでも「いじめられているのか?」などといった詮索は良くないでしょう。あくまで子供が話してくれるのを丁寧に聞くという姿勢を崩してはいけません。
終わりに
- 自傷行為は自殺行為ではない
- 自傷行為は決して珍しくない
- 自傷行為をする理由は孤独な不快感情への対処
- 子供の話を傾聴する
- 子供に罪悪感を与えない
以上のことを意識して,自傷行為をする子供,児童生徒に対応してください。
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