第1講で述べたように,国際関係はアナーキーです。アナーキー下では協力関係を築くことが難しいということまでお話ししました。
ですが,世の中協力した方が上手くいくことの方が多い。無政府の世界で,協力関係を築けるようにする工夫,それが「制度」というものです。
今回から2講に渡って制度について解説していきます。
制度とは
そもそも制度とはなんでしょうか。次のように定義することができます。
制度とは国家同士が協力または競争する在り方を明示的に示したルール
重要なのは「明示的」という点です。暗黙的な了解を含むものは「規範」と呼びます。
そして,制度には大きく分けて二つあります。具体例とともに。
- 国際法…核不拡散条約,サンフランシスコ平和条約,ポーツマス条約 など
- 国際機構…国際連盟,国際連合,IMF,WTO など
これらの制度がどのような効用をもたらすのか見ていきましょう。
制度の役割
制度の役割は5つあると考えられています。これらの役割は効用でもあります。
行動基準の明確化
1つ目は行動基準の明確化です。
例えば,「10年後までに,CO2排出量を50%削減する」と明文化されたら,その国が制度を守っているかどうかはっきりします。10年後までに50%削減したら守っているし,しなければ守っていないことになります。
このように「どうすれば良いか」を明示的に示すことが行動基準の明確化です。
これをするだけで解決するのが調整問題です。
例えば,右側通行にするか左側通行にするか,などはどちらかに揃えさえしてしまえば解決する問題です。
このような調整問題は行動基準を明確にするだけで解決します。
情報の流通
他国と協力しづらい一つの原因として,情報の非対称性があります。簡単に言うと「相手国はちゃんと協力しているのか?」と疑ってしまうから協力関係を築きにくいのです。
制度を通じて,遵守状況の自己申告やレポート,モニタリング,査察を課すことができます。こうすることで,相手国の遵守状況を知ることができるのです。
ただし,国際社会はアナーキーですから,査察を拒否したらすぐさま投獄,などは出来ません。しかし,「あの国は査察受けないぞ」と疑いの目を向けられると,今後,国際社会から孤立したり,他国に協力してもらえなくなったりします。
このように,何気なくプレッシャーをかけて,情報を流通させて,相手の遵守状況を知ることができるようにしているのです。
継続性と相互性の向上
アクセルロッドの繰り返し囚人のジレンマ実験のように,一回だけなら裏切った方が良い。しかし,今後もずっと関係が続くのなら協力した方が良い。このような状況はたくさんあります。
制度を通じて,継続性を作り,互恵性を高めることで,協力関係を築くことができるのです。
共同意思決定コストの削減
4つ目は共同意思決定コストを削減できる点です。
毎度毎度,いつどこで会議するのか,議決方法は一国一票なのか全会一致なのか,などを決めていたら,コストが膨大になります。
決め方だけでも決めてしまおう,というのが,制度の一つの役割です。
紛争解決
紛争解決法が明記されている制度もあります。
明示することで,紛争がエスカレートすることを防いでいます。
例えば,WTOは司法の機能を所持しています。有効に働いているかは議論の余地がありますが。
おまけ
世界初の国際機関を知っていますか。
世界初の国際機関は19世紀初めの「国際河川委員会」です。
河川の問題は国境を容易に跨ぐので,制度を作って,協力関係を築く必要があったのですね。
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