前回に引き続き,国際制度について解説していきます。
今回はより具体的に,安全保障分野と経済分野に分けて,制度がどのような仕組みで働いているのかを示していきます。
安全保障分野
安全保障政策とは戦争に備えたり,抑止したり,戦争したりする政策のことを指す。
集団的自衛と集団安全保障の違い
まず集団的自衛と集団安全保障の違いを明確にしておきましょう。
集団的自衛とは
密接な関係にある外国に対する武力攻撃に対し,自国が攻撃されていないにも関わらず実力を以て阻止すること。
密接な関係とは,基本的に同盟しているということです。
対して集団安全保障とは
国際社会の構成国からの侵略に対して,他の構成国が一致団結して立ち向かい制裁を加えること。
例えば,国際連合に加盟しているA国がB国を侵攻した時,A国以外の全加盟国がA国に制裁を加えることを指します。
同盟
同盟とは特定の状況において相互の軍事支援をする約束のことです。
例えば,NATOや日米安全保障条約などです。
同盟の目標は「相手国を抑止する」です。例えば,仮定として,ロシアがポーランドを攻撃したいと思っているとする。ポーランド一国だけならロシアは戦争で勝てるかもしれません。しかしロシアは「ポーランドはNATO加盟国だから,ポーランドを攻めたらアメリカやイギリスも攻撃してくるかもしれない」と思って侵攻を躊躇うのです。
だから攻撃された時点で同盟は失敗と言えます。
同盟の成功
冷戦は米ソの大戦争が避けられたと言う点で成功と言えます。
同盟の失敗
WWⅠやWWⅡは失敗と言えます。
同盟を成功させるためには
冷戦が成功して,世界大戦は防げなかったのはなぜか。
一つはコミットメントの可視化が行われた点。
世界大戦の時は紙面上で「日英同盟」とやっているだけで,いざ戦争になったら軍事支援するかどうかわからない。
対して,冷戦時では各国に基地などを置いて,攻撃したら絶対に反撃するぞ,という強い意思を示すことが出来ています。
この「本気で反撃される」と相手国に思わせることこそ,同盟成功には重要なのです。
同盟は良くない!?
同盟は困難を抱えると言う研究もあります。
武力紛争を増やしてしまうのではないか,という説です。
安全保障のジレンマが起こったり,モラルハザードが起こったりします。
安全保障のジレンマとは,中国が軍拡すれば,日本はそれを脅威と見なし日本も軍拡します。するとそれを中国が脅威と認識して軍拡…となることです。
モラルハザードとは同盟があることで,むやみに強気な対外政策を取ってしまう可能性があると言うことです。
また同盟を結んでいるのに助けてもらえなかったり,同盟を結んでいるから戦争に巻き込まれたりするのも一つの課題です。
集団安全保障
集団安全保障とは上にも書きましたが,国際社会の構成国からの侵略に対して,他の構成国が一致団結して立ち向かい制裁を加えることです。
集団安全保障の効果として,戦争が魅力的でなくなると言うことです。他の国全部で制裁されるのだから,戦争はしない方がいいだろうという結論に至るのです。
また,多少の戦力差の変化にこだわる必要がなくなるので,安全保障のジレンマを克服することができるかもしれません。
しかし,集団安全保障はなかなか発動しません。
現在の世界では国連の安保理が脅威と認定して,平和執行を行うということで集団安全保障が発動します。そのため五大国が全会一致でやる気がない時でないと集団安全保障は発動しないのです。
以下は珍しく集団安全保障が発動した例です。
朝鮮戦争
国連軍が韓国を支持しました。
ソ連が安保理をボイコットしていたので拒否権が発動されず,集団安全保障が発動しました。
クウェート侵攻→湾岸戦争
多国籍軍がイラクを空爆しました。
イラクのクウェート侵攻が明らかに侵略行為であり,米ソの利害が一致したため発動しました。
経済分野
国際関係における経済とは概ね貿易を指します。
そもそも比較優位論により,素朴に一国の経済利益のみを考えれば自由貿易にすべきです。
しかし,現実では違います。
関税や数量制限,輸入ライセンスなどの貿易障壁によって,自由貿易が制限されています。
なぜ自由貿易を制限するのでしょうか。
それは保護貿易をした方が得する人がいるからです。そのような人々が政府に働きかけて貿易障壁を押し上げるのです。
しかしこの保護貿易の最たる例であるブロック経済が世界大戦の一つの原因であったことは言うまでもありません。
だから自由貿易を進めたい。しかし,これは一種の集合行為問題で勝手に自由貿易になることはありません。
そこで自由貿易を進めるために制度が必要なのです。
*集合行為問題に関して詳しく知りたい方は以下から。
ということで,経済分野においても制度は作られます。1番有名なのはWTO。他にもGATTなどがあります。
その役割は前回もやった5つの役割です。行動基準の明確化,情報の流通,継続性と相互性の向上,共同意思決定コストの削減,紛争解決です。詳しくは以下から。
制度のおかげで,関税は大戦後,順調に下がっていきました。
しかし,最近のWTOは機能不全に陥っています。その理由としては,参加国の増えすぎ,貿易障壁の壊しやすい品目は下げ切った,知的財産等の扱い方がわからない,G7以外も考える必要が出てきた,などの理由が挙げられます。
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